●書籍紹介●
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 / 渡邊格
「利潤をださない」という経営理念をもつ、小さなパン屋の物語。
この本を読めばきっと、「お金があるほど幸せ」とは思わなくなるだろう。
お金の為に身を粉にして働くことにも、違和感を覚えるようになると思う。
以下に、私の所感を含め、この本の概要を記してみる。
所感と概要
お金は、「道具」としては大切なものだ。
しかし、それを「目的」とすると、歯車が狂いだす。
現在の資本主義社会が、まさにその通りだ。
「利潤」を求めることには限界がなく、常に「もっと、更に」と高みを求められる。
その結果、人間は限られた体力・時間・生活を費やして労働に向かい、どんどんと疲弊していく。
なかには、良心の呵責に陥るような場面にも遭遇するだろう。
いや、その呵責すらも感じずに、あくどいことも平気で行われている現状ではないだろうか。
すべては、何よりも「利潤」を求めるが故に。。。
当時サラリーマンであった著者は、そのような現代社会の実態を痛感し、
「小さくてもほんとうのことがしたい。自分が正しいと思えることをして、それを生活の糧にして生きていきたい」
と思い立つ。
脱サラし、1からパン職人の修行をはじめる。
その後、周りから「不思議なパン屋」と評されるお店を営むことになる。
なにが不思議かというと、、、
- 所在地は、岡山駅から電車で2時間以上かかる山のなか。
- 看板メニューは「和食パン」。
- パンの値段は、350円という高価格。
- 古民家に棲みつく天然の菌でつくる酒種を使って発酵させる。
- 週に3日は休み。
- 毎年1ヶ月の長期休暇をとる。
- そして、経営理念は利潤を「出さない」こと。
などだ。
筆者はこのパン屋経営のなかで、現代の資本主義の仕組みに対抗する。
カール・マルクスの資本論や、ミヒャエル・エンデの思想、そして自身のパン屋としての実体験をもとに、現代の資本主義のおかしな点に目を向ける。
それは、おカネは「腐らない」ということだ。
自然界のあらゆるものは、時間と共に変化し、やがて土へと還る。
つまり、「腐る」。
しかし、おカネは違う。
自然の摂理に反し、腐らないどころか、むしろ利子や信用創造によってどんどんと増えていく。
腐らないが故に、「利潤」はどこまでも求め続けることが可能だ。
これは、よく考えるとおかしくないだろうか?
地球上に存在する有限である「モノ」に対し、腐ることなく無限に膨れ上がる「おカネ」。
その両者を等価として交換している。
どこかでそのギャップのしわ寄せがこないはずがない。
実際に、その反動で多くの犠牲を産み出している。
環境破壊、公害、農薬や添加物、原発など、人間が制御しきれない事態に陥っている。
また、過労やストレスにより心身の不調に悩む人が増加している現状も、その犠牲と言えるだろう。
人々が「利潤」を求め続ける限り、これらの勢いは今後もどんどんと加速していくだろう。
そこで筆者は、「腐らない」という経済の不自然な性質に立ち向かい、「腐る経済」を実践する。
「腐る経済」とは、、、
『必要なおカネを必要なところに必要なだけ正しく使う。』
『「商品」を、適正価格で「正しく高く」売る。』
『経営者が労働者に対して、不当に搾取することがない。』
、、、という経済だ。
利潤を求めないといっても、もちろん、パン屋の持続や生活の為の損益分岐点は維持する。
しかし、必要以上は求めない。
そんな状況に、不安を感じる人も多いだろう。
しかし、それを実際に実践している、この著者とその家族を見てほしい。
間違いなく、幸せな毎日を生きている。
私は実際にお会いしたことはないが、文面や写真から、そう感じずにはいられない。
日本の高度経済成長期は、とうに終わった。
有限な「モノ」と、無限な「おカネ」というギャップがある以上、経済を永遠に成長させ続けることは、不可能だ。
僕ら現代人はそろそろ、
「何の為に働くのか」
「何のために自分の大切な時間を使うのか」
ということについて、その「本質」に、もっと目を向ける時期にきているのではないだろうか。。。
こんな方に、読んでほしい!
働きすぎで体調崩しそう。(崩した。)