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【書評】「精神科医はいらない」下田治美
著者は作家・エッセイストの下田治美さん。
著者自身による「うつ病」の実体験と、患者や医師への取材を元にしたエッセイ的な内容です。
精神医療自体を全て「いらない」というのではなく、「必要だけれど、うまく使いこなせる人が少なすぎる」という立場での内容となっています。
以下、私なりのレビューです。
医原病と言ってよいであろう薬漬けの状態にされ、回復しないどころか悪化をたどる人々の立場に立ち、歯に衣着せぬ言葉で「精神科医たち」をバッサバッサとぶったぎっていく。
そのなかでも、精神科医を「サイエンスではなくブンガク者」と評しているのが分かりやすい。
科学的な根拠なく診断する精神科医への、批判的な比喩だ。
例えば外科では、胃にガンができているのを確認して、「胃ガン」と診断する。
内科では、肝臓に炎症が起こっているのを診断して、「肝炎」と診断する。
では、「うつ病」はどうやって判断するのか。
実は、明確な根拠は何もない。
本人の話を聴き、それをもとに医師の主観で病名が決定される。
(「DSM」や「ICD」という診断マニュアルはあるけれど、その基準の信憑性もひどいと個人的には思います。それについてはまたの機会に。)
よって、同じ人の同じ状態を診ても、精神科医によって診断する病名が変わることも多々ある。
そのような曖昧な仮説に基づき、薬物が処方される。
こんな「治療」があるだろうか。
(薬物処方についても、多剤処方や代謝酵素を無視した処方など、問題が山積みだ。)
例えば単なる胃炎の人に、試しに抗がん剤を使ったり、試しに手術をしたりするだろうか。。。
「精神医療」はそれくらい脆い仕組みのうえにあるという事実を、ズバッ切り込んで書いてある。
全体を通して、重篤な内容に辛口で切り込みながらも、どこか軽快なリズムでスラスラと読めてしまう。
悲しみに誘われながら、どことなしにユーモアも感じる。
さすが作家として活躍されてきた方の筆力だなと感じます。
ただ反対意見がひとつ。
この本では、うつの原因は「脳の神経伝達物質の不均衡」とされている箇所がいくつかある。
そして筆者は、「多くの精神科医がこの科学的データに基づかずに診断している」と嘆かれている。
しかし、そもそも「脳の不均衡」説(モノアミン仮説)は科学的信憑性をもつデータではまったくなく、単なる仮説に過ぎないはずです。
そしてその仮説のうえに成り立っていること自体が、現代精神医療の脆さの由縁でもあると、私は認識しています。
※約10年前に出版された本なので、現在との認識の違いもあるのかと思います。
レビュー終わり。
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